
サプリメントや健康食品の原料名として目にすることが多い言葉ですが、もとはカニやエビの殻などに由来する天然の高分子で、食品以外の分野でも研究されています。
この記事では、キトサンという言葉を初めて見た方向けに、意味、キチンとの違い、原料、使われ方、情報の見方を順に整理します。
健康への働きについては、商品の宣伝ではなく公的な情報で確認する姿勢が大切です。
キトサンは、キチンを加工して得られる多糖類です。
原料として知られるのはカニやエビの殻ですが、キチン自体はカビ、酵母、キノコなどの細胞壁にも存在します。
分解の方法や程度で性質が変わるため、「キトサン」と一括りにせず、どんなものかを個別に確かめることが重要です。

監修者
銀座アイグラッドクリニック 院長
乾 雅人(紹介ページ)
2010年、東京大学医学部卒業。同大学附属病院で初期臨床研修、外科専門研修を修了。同大学大学院では外科学(呼吸器外科)を専攻し、肺移植領域の研究に従事。2020年、銀座アイグラッドクリニックを開業。臨床行為に従事する傍ら、医療コンサルティング会社も経営。総合病院や製薬会社、保険会社、会計事務所などの業務を補佐し、医療の社会問題化と向き合っている。NMNの上位互換である5デアザフラビン(TND1128)臨床研究の第一人者でもあり、眠れる知財の普及に尽力している。
キトサンの意味:どんな物質なのか

キトサンは多糖類の一種です。多糖類とは、糖がたくさんつながってできた大きな分子のことで、身近なものではセルロース(植物の繊維の主成分)が同じ仲間です。
初心者がつまずきやすいのは、「キトサン」が一つの決まった物質ではない点です。同じキチンから作っても、分解の方法や程度によって性質の異なるものができます。たとえば分子の大きさ(分子量)も製品によって幅があります。
そのため、「キトサンはこういうもの」と一つの像で語るより、「どんな条件で作られたキトサンか」を意識すると理解しやすくなります。
キチンとキトサンの違い

キチンとキトサンは、どちらも直線状の高分子で、セルロースと似た骨格を持ちます。化学構造の違いは、分子の中の特定の位置にある部分だけです。
その位置が、キチンではアセチルアミド基、キトサンではアミノ基、セルロースでは水酸基になっています。
| 物質 | 特定の位置にある基 |
|---|---|
| キチン | アセチルアミド基 |
| キトサン | アミノ基 |
| セルロース | 水酸基 |
ただし、これは理想的な構造の話です。実際のキチンには一部アミノ基が含まれ、キトサンには一部アセチルアミド基が含まれることが多いとされています。
つまり両者の境目は、はっきり二分されるものではありません。
脱アセチル化度とは
キトサンの構造を表す指標の一つが「脱アセチル化度」です。理想的なキチンの構造から、何%をアミノ基へ変換したかを示す数値で、値が大きいほどアミノ基が多いキトサンになります。キチンからキトサンへは段階的に変わっていくため、このような指標が使われます。
キトサンの原料は何か

カニ殻から抽出したキトサンについての解説文献でも、キトサンは甲殻類の殻に含まれるキチンを脱アセチルした、アミノ基を持つ高分子多糖と紹介されています。
一方で、キチンは甲殻類だけのものではありません。カビ、酵母、キノコなどの細胞壁にも多量に存在し、接合菌類の細胞壁にはキトサンそのものも含まれます。
入手可能なキチンだけでも、菌類に含まれる量はカニとエビに含まれる量に匹敵すると推定されています。
キトサンはどう作られるのか

大まかな流れは、原料に含まれるキチンを取り出し、化学的に処理してキトサンにする、というものです。この処理は「脱アセチル化」と呼ばれ、キチンの構造にあるアセチルアミド基をアミノ基へ変える反応にあたります。反応の条件を変えることで、さまざまな分子量のキトサンを作り分けている製造例もあります。
なお、研究室でキトサン膜を作る場合は、キトサン粉末を酢酸を含む水溶液に溶かして膜にし、水酸化ナトリウム水溶液で中和、水洗、乾燥するという手順が報告されています。これは研究用の例で、食品の製造方法を示すものではありません。
キトサンの性質:水への溶けやすさ
キトサンのアミノ基は、正に帯電することで水に溶けます。この正電荷から、吸着性や抗菌性といった機能が現れるとされています。つまり、キトサンの溶解と機能には酸性のpH条件という制約があります。研究では、この弱点を克服し、中性でも溶けて性能を示すキトサン誘導体も開発されています。
また、キトサン膜がプラスに荷電する性質を利用して、水に含まれるアンモニアの透過を抑える研究も行われています。実験ではキトサンの脱アセチル化度が高いほど、つまりアミノ基が多いほど、アンモニア除去率が上がりました。この結果は膜を使った実験条件での話で、食品としての性質とは別の事柄です。
キトサンは何に使われるのか

キトサンは、抗菌繊維用の原料として広く利用されていると説明されています。加えて、医薬品や健康食品の原料としても期待されている物質です。
また、吸着剤、抗菌剤、化粧品素材、医薬品添加剤、分離材料などの分野での利用が期待される高機能なキトサン誘導体の研究も進んでいます。
さらに、天然由来のカチオン性高分子であるキトサンは、石油由来の高分子から天然高分子やバイオプラスチックへの転換が進む流れの中で、需要が拡大していると述べられています。
食品の原料というだけでなく、素材としての側面を持つ点が、キトサンを理解するうえでのポイントです。
食品・健康食品としてのキトサンをどう見るか

キトサンは健康食品の素材として扱われるため、有効性や安全性を調べたくなる方も多いでしょう。
国の機関が運営する「健康食品」の安全性・有効性情報(素材情報データベース)には、キトサンの項目があります。このデータベースは消費者庁委託事業で作成され、素材や成分の情報を収載したものです。
実際に販売されている商品の有効性・安全性を示すものではなく、商品を選ぶうえでの目安として使うよう案内されています。
同じ案内では、健康の基本はバランスの取れた食生活であり、「健康食品」の利用にあたっては医師、薬剤師などに相談するよう勧められています。
キトサンを含む食品を検討するときも、体質や服薬の状況によって事情が異なるため、不安があれば専門職に相談するのが確実です。
キトサンには、コレステロールなどに関する研究報告が紹介されることがあります。
しかし、研究で用いられた素材の種類、量、対象者、試験条件はそれぞれ異なります。ある試験の結果を、すべてのキトサン食品に当てはめることはできません。
食品を選ぶ際は、商品ごとの表示や届出情報を確認し、必要に応じて専門職に相談してください。
よくある疑問
まとめ
キトサンとは、キチンを加水分解して得られる多糖類で、分解の方法や程度によって性質が変わる物質です。
キチンとの違いはアセチルアミド基かアミノ基かという構造上の点にあり、その程度は脱アセチル化度で表されます。原料はカニやエビの殻が知られていますが、キノコやカビなどの細胞壁にもキチンが存在します。
用途は繊維、素材、研究分野にも広がっています。
食品として検討する場合は、素材の情報と実際の商品情報が別であることを意識し、不安があれば医師や薬剤師に相談してください。
